知の泉を求めて
●さまよえる教育●
第2部 
中日新聞【三重県版】
2002年3月7日朝刊
担当記者=八木楠代

−新学習指導要領では授業内容が3割削減される。その影響は−
学力の二極化が進むだろう。これまで学校の授業は、平均レベルに合わせてきたが、これからはボトム(底辺)ラインになる。勉強する、しないが分かれれば、全体としての学力水準は下がるだろう。

−都市部で公立離れが指摘されているが、私学にとっては−
私立中学の入試問題の傾向も変わる。出題できる範囲が狭まれば、問題を作りにくくなる。関東地方では今年の入試で『その理由を説明しなさい』という、論証させる問題を出す有名私学がいくつかあった。新指導要領を想定しているのではないか。

−子どもたちの学力低下を感じるか−
学力というより、自分で考え、解決しようとせず、教える側に頼ろうとする傾向がある。5、6年ほど前からだろうか。これは親の影響もあると思う。今の親は、核家族化が始まったころに子供時代を送っている。少子化も影響し、自由きままに育った人も多い。

−例えば−
ある時、塾の保護者説明会で、化粧をしたり携帯電話で電子メールを送っている人がいて、驚いた。塾に通わせれば、何かを与えてくれるだろうと期待しているが、預けっぱなしではいけない。【消費者】としては当然の発想かもしれないが、下底での教育も必要だと思う。昔、灘中に合格した生徒の親で、社会科で学んだ土地に子どもを連れていき、実際に肌で体験させる人がいた。北海道を学べば北海道へと。これは極端な例だが。そういう意味では、社会現象として学力が衰えているのかもしれない。

−いわゆる「浮きこぼれ」の子どもを指導しているが、新指導要領による影響はあるか−
浮きこぼれには3種類ある。
こちらが何も言わなくても、どんどん自分で勉強するタイプ、与えられた問題を理解しながら進むタイプ、先生や教科書に書いてあることに疑問を持たず暗記するタイプ。
どれも成績は上位だが、3番目は中途半端な浮きこぼれで、なかなか伸びない。

−3番目は1、2番目とどう違うのか−
板書をきれいにノートに書き写すが、なぜそうなるのかを考えていない。塾で学んだ知識を学校で復習することで自分のものにしているが、これからはそうはいかない。学校で学ぶ内容がやさしくなれば、3番目のタイプはこれまで以上に伸び悩むだろう。今後は、こうした第3の層が拡大することが予想される。こうした子どもへの対応が必要だ。

−どうすれば伸びる子どもになるか−
等身大の学力よりもさらに上を目指し続けること。志望中を下げると、急に成績が落ちることがある。今の成績でも合格できるから、やる気がなくなってしまう。背伸びするからこそ、成績が伸びる。

−新指導要領には競争原理への反省という面もあるようだが−
競争原理の中での喜び、興味ある分野の知識を知る喜び、難解な問題が解けた喜びなど、子どもによってさまざまだが、上を目指すからこそ、こうした喜びを味わうことができる。これは大人にもいえると思う。もう一つ、ミスを恐れないでほしい。点数だけにこだわり、問題の解き方だけを覚えるのではなく、なぜそうなるのか、概念や考え方を学んでほしい。

−私学志向が強まり、公立教育への不安が高まるか−
今の不景気で、保護者は子どもを中学から私学に預けることに慎重になる。今年の愛知県の傾向を見ても、急激に私立中学へと流れているわけではない。公教育に適度な競争原理を持ち込むことが、不安を取り除く一つの手だてになるのではないか。