リレー執筆
 

 
<名古屋シネマテーク>



85年10月1日発行

☆名古屋☆  倉本徹

 1982年6月に、35_を常備した自主上映館・名古屋シネマテークを開設した。それ以前は、ナゴヤシネアストと称し、71年1月よりホールなどで断続的に自主上映活動を行っているので、私にとってはこの道14年になる。ただし82年を境に、運営の重心が、個人レベルから集団レベルへ若干の移動があるので、継続性には疑問符を置かなければならない。
 

自主上映館の設立

 設立の動機は、肉体的老化現象、(現・40才)と映画状況の変化徴候(マイナー系配給組織の増加)によることが大きい。
 自前のスペースの必要性を呼びかけたところ、80人を越える人々が応えてくれた。5万円から50万円の範囲内での出資金である。当然1万円単位のカンパもあった。その総額は1300万円にのぼる。(現在時点。設立経費は約1000万円)
 これらは名古屋に自立したスペース(映画に限らず)の必要性を痛感している人々、確実に見たい映画を上映してくれる映画館の存在を夢見ている人々、それに個人的関係性のある人々によるところが大きかった。このことは名古屋に限らず、他地区においても、類似的なものが作られる可能性を示唆した、と思っている。
 最初の2年間に300万円を越える赤字を計上してしまったが、カンパ等によって埋められた。3年目の秋には、全国的に自主上映を救った「アントニー・ガウディー」の上映によって、半分以上の赤字を解消した。1年のうち数本のヒット作によって維持されている既成の映画館の悲哀を体験することになる。
 

未公開作品の増加

 当初は、既存の配給会社や16_業者からの公開済みのフィルムを利用することがほとんどであったが、昨今は、シネマテーク・ジャポネ−ズ(CJ)による共同輸入作品は言うに及ばず、マイナーな配給会社の未公開作品を上映することが多くなってきた。
 これにはそれなりの理由がある。第一に、以前に較べて既存の配給会社や映画館が自主上映にかかる作品傾向のものを公開するようになってきたこと。言わゆるメジャーのマイナー接近である。その為、同傾向の旧作では勝負は残念ながら明白である。
 第二に、当会での上映作品数が増大し、作品が枯濁してきたこと。その為、旧作だけでは企画は新鮮味とおもしろ味に欠け、観客の興味をひきつけるものは提供出来にくくなった。
 第三に、マイナーな輸入業者(個人に近いか)が一つのポリシーを持って紹介作業を行うことが予想以上に多くなり、自主上映の変形した当会が名古屋において受け皿にならざるを得ないこと。それは、東京以外の映画館では収益性の下で無視され、かつ、受け入れる他の自主上映組織が今のところ未発達とも言える状況の為である。 
 

増え続けるマイナー系

 思えば、70年代初頭は、せいぜいフランス映画社とフィルムアート社ぐらいのものであった。が、現在では、欧日協会、ユーロスペース、「第一の敵」上映委員会、ケイブル・ホーグ、アテネ・フランセ文化センター、質問舎、ぶな企画、それにCJなど数多くのマイナー系配給媒体が存在する。さらに、ドイツ文化センター、国際交流基金などの半官半民的色彩の強いところもある。
 これらの行為者による作品の多くは、先にものべたように既存の映画館にかけられることはない。
 

変質する映画状況

 だが、先述した既存の配給・興行ルートによるマイナー接近は供給過多的状況を生み出し、自主配給・自主上映も旧態然とした発想では生き残れなくなりつつある。即ち、単に初公開作品と言うだけでは人が集まらなくなってきたのである。当然、この供給過多状況は、一時の現象ではあろう。が、当会に限れば、ホール上映の時のように資金が底を突いたからといって、活動を中断してしまえばよいということにならないのが辛い。
 今年2月から7月にかけて、マイナー系の初公開作品を中心に、無謀とも思える上映会を実行してきた。結果、300万円にものぼる赤字を新たに作ってしまった。25企画の中で黒字となったのは「バスケットケース」のみであった。この間の企画とは、ドイツ映画大回顧展]U〜]]、天使、アラン・タネール、バリエラ、オリンピアダ40、はみだした男、希望、エレジー、イタリア映画フェスティバル、新東宝セレクションなどなど。
 7月末からは「パラダイスビュー」「ヴィデオドローム」など若者に働きかけ易い作品、及び、メジャー系の言わゆる名作、話題作だった作品などを中心に上映することにより、辛うじて当該期間の赤字を免れている。
 このように書き進めてくると、以前に批判してきた既存の映画館のあり様との差異が認められなくなる恐れがある。だが、それは表層上のことである。「アントニー・ガンディー」の遺産によって、2月から7月にかけての自主上映としては90%満足出来る企画が出来たように、何らかの遺産を創造することによって、満足度の高い企画が数多く提示出来るようになるからである。
 

極小スペースの新設計画

 現在、新たなるスペースの増設を計画している。それは名古屋シネマテークの隣室を借り受け、席数20〜40の極小スペースを作ろうという計画である。
 名古屋シネマテークは、固定47席、最大収容人数100人の小劇場ではあるが、1ヶ月の経費がフィルム代、チラシ代を除いて100万円を越えている。新スペースによる経費増が、せいぜい月15万円である為、8_、16_による極小規模の上映がやり易くなる。
 例えば、英語字幕によるフランス映画、8_を中心にしたアメリカ・サイレンと映画、16_による日本映画、8_・16_の自主製作・個人映画、実験・記録映画など、シネマテーク本体では確実に赤字となり、ボツにせざるを得なかった企画が実現可能となるのである。
 

結び

 このようにして全国初の35_を常設した一個人によらない自主上映館として設立された名古屋シネマテークにも、苦悩と希望の日々があり、社会潮流に抗しながらも流されざるを得ない現実がある。ただ、自主上映としての意識は、根っこの部分では喪失せず、最低限持ち続けていると思っている。
 今後の活動展開に、乞う御期待!
 ※運営形態、スタッフ制等については割愛した。