人民新聞 83年2月5日(通巻第477号)

 適当なスペース(雑居ビル2F)があり、条件もよさそうだから、どうか、との話が持ち上がったのは昨年の一月のこと。スタッフ等との相談を繰り返し、この話に乗ることになった。
 しかし、工事費、設備費、運転資金等で二千万円はいるとの見積もりがあり、資金をどうするかが、大きな問題であった。私とスタッフを合わせても、出せる金は百万円が限界である。というのも、これまでの11年間の上映活動(会場レンタル形式)で、年間百万円を超える赤字を計上している状態では、私の蓄えは無に等しかった。
 そこで不足金調達の方法を考えることになった。数名の篤志家によることも可能ではあろうが、その人の意見を反映しなければならない。少額の寄付金を集めては、ありがた味が感じられないかも知れないし、又、出す側の腹もあまり痛まないだろう。
 さらに私自身が出せる額も五十万円が限界であり、出した側がどのようになっているのか気になるのは十万円を超える額であると考え、五万円を半口として、最高限度五十万円を出資金(返却不要)として拠出してもらう主旨書を各方面に配布することにした。三月のことである。返却不要では出しづらい人もおられるだろうと考えて、借入金制度、及び、入場料前払い制度を加味してみた。
 申込みが順調に増えていた。しかし、予定の金が本当に集まるかどうか不安は消えない。実際、申込みのあった人で、結果的には出ない場合もあった。
 六月、工事にかかった。六月末、保健所申請四十席(固定)、最大収容人員九十の小映画館が完成した。
 このスペースには、35ミリ映写機、16ミリ映写機を常備し、かつ、興行場として許可がなされており、行政からの横槍の心配は一切ない。各地では行政の圧力により、閉鎖の憂き目にあっているとの情報を聞くにつけ、多少の妥協はしても、この処置(順法処理)は正しかった、と思っている。
 今年一月末日現在、出資協力者八十名から総額一千三十万円、借入金などとして百七万円が集まり、予定額を一応は満たしている。
 これ程の協力が得られた背景には、十一年間の上映活動に対する信頼と、それに対する協力の気持ち、及び、文化情況等の悪化と、中央集中による地方との格差に対する危機感があり、自分達の飢えを満たす“場”の必要性が、大きく寄与したものと考えている。
 現在の運営は苦しい状態に置かれているが、半年以内に解決出来る見通しは立っている。このようなスペースが、全国に出来た時、それは、商業配給ルートと対峙出来る“力”となって、(映画)文化情況を根底から覆すことが出来るものと私は確信している。