中部讀賣新聞 マイ・タウン 85/8/29掲載



大手配給会社の系列にかからない名作映画の上映を続ける自主上映館「名古屋シネマテーク」(名古屋市千種区今池1の6の13、今池スタービル2階)が、「名画ファンのために、十周年を笑顔で迎えたい」と、スタッフは支援の人たちに見守られ、元気いっぱいだ。
 
主義主張ある作品を選択
<屋台骨>
 狭い映写室には、自慢の35_映写機がデーン。それに手をやって「石の上にも3年」としみじみ語る代表の倉本徹さん(40)。
 シネマテークの歴史イコールこの人の歴史といっていい。名古屋大学在学当時から映画研究会主催で、自主上映運動を始めたというから、この道のパイオニア。
 「ここまで来たのも、行きがかり上」と淡々としたもの。しかし、上映の基準には厳しい。「いわゆる名作であること、資本の論理からはじき出された主義主張の色濃い作品・・・」。昨年の「ニッポン国・古屋敷村」や、スペインの建築家ガウディを描いた「アントニー・ガウデイ」の成功には、「してやったり」と喜びは格別という。肩書は「代表」だが、代表自ら学習塾の講師もしている。まだ独身。
 
「なんでもこなさなくては・・・」
<片腕>
 平野勇治さん(23)は専従スタッフ。南山大学在学中から倉本さんと行動を共にし、卒業後、今の仕事に。
 プリントを借りる交渉、映写、キップのもぎり、機関紙編集、新聞社回り・・・。「なんでも、こなさなくては務まりません」と舞台裏をひとくさり。
 
映画の魅力にとりつかれる
<女性スタッフ>
 紅二点のうちの一人が武藤直子さん(26)。予備校のクラス担任を務め、日曜日か土曜日の一日を受けもっている。
 向田邦子さんのように、とシナリオ作家志望。「映画の仕事につけば役に立つのでは」と応募した。「でも忙しくて、今はそれどころではなくなってしまって・・・」。

 映画の魅力にとりつかれたのはそれから。「テレビは筋書き中心。そこへいくと映画表現は複雑。映像自体が美しいのよね」とぞっこん。
 
接する興奮若い時と同じ
<映画少女>
 桑名市の家から足しげくシネマテーク通いしている常連の主婦安川喜久子さん(65)。上映の作品の多くが昔見た映画というから、根っからの映画ファンだ。
 戦前になるが若い頃東京で過ごした。「十代の女性が映画館へ出入りするのは少なかった。映画みたさの恐いもの知らずでした」と、昔を振り返る。今ではおばあちゃんの身だが、「映画に接する興奮は若い時と変らない」という永遠の”映画少女”だ。映画を見るだけではなく、待合室の掃除をかって出る優しい心遣いも。
 
名古屋独自の文化運動望む
<思いは同じ>
 地下鉄今池駅に近いところに「ウニタ書店」を構える竹内真一さん(36)。シネマテーク設立からの理事を務めている。「東京にもない名古屋独自の文化運動をきりひらいていくために頑張ってほしい」と、倉本さんに熱いメッセージを贈っている。
 
一層の飛躍を心から期待
<縁の下の・・・>
 同じビルの地下にある炉端酒房「六文銭」の主人三島寛さん(46)は、シネマテーク応援団の団長的存在。設立資金を出したにはもちろん、ビルの”大家さん”川瀬元教さんに倉本さんを紹介、赤字経営必至?の人たちの保証人にも。
 三島さんは「今池を若者の街にするために、シネマテークは貢献している。さらに飛躍してほしい」と期待している。
 

名古屋シネマテーク

 地下鉄今池駅から南西へ歩いて5分。飲み屋街の5階建て雑居ビル。40のいす席がある。3年間の上映作品は600本。入場者数は6万人。しかし、赤字の方も積もって145万円という。9月の上映予定は、「戦艦ポチョムキン」のエイゼンシュティン、「去年マリエンバートで」のアラン・レネ、それにゴダールなどの5人の監督作品が組まれ、今年は年間を通じて「フランスの名作」を集中上映している。いま、今年度の鑑賞会員を募集中。入会金500円。欠員のスタッフも募っている。名古屋シネマテークは電話(052)733−3959