グループ寸描


副題

中日新聞 82/5/31掲載

 これまでの、いわばジプシー生活から”城”の確保へ・・・・・・見たい映画を自分たちの手で上映する活動を進めてきた自主上映グループ「ナゴヤシネアスト」が、客席数60の専用上映館「名古屋シネマテーク」を6月27日に開館させる。会ができて11年目。やっと念願がかない、運営スタッフは開設準備に追われている。
 「いまの興行形態では、商業ベースに乗らない作品は見られないし、古い名作も話題だけが残っていて見る機会がない。こうした一方通行的な状態を変え、さらには新しい映画状況をつくってゆく場にしたい」と倉本徹(36)=塾経営=。会の代表で、劇場設立の仕掛け人である。


本を超える年間上映本数

  シネアストの現在の鑑賞会員は280人。上映本数は年間百本を超える。新作のポーランド映画祭を催したり、珍しいボリビア作品を取り上げたり、日本の監督シリーズを企画するなど、洋の東西、ジャンル、新旧を問わずに上映している。2年前には、後藤幸一監督の映像名古屋と16ミリ作品「沙羅」を共同製作し、創造面にも一役かった。
 また全国10都市余の自主上映グループで作っている組織、シネマテーク・ジャポネーズが自主輸入したポーランドの「砂時計」など”自分たちの映画”もすでに4本公開している。だが、会にとっては最大の悩みは会場難。公共施設や貸し館など数ヵ所を時に応じて利用してきたが、これでは長期にわたる企画や、飛び込みの作品に対応できない。場所の確保がどうしても必要になってきた。
 たまたま名古屋市千種区今池の今池スタービル2階に、条件に合ったところがみつかり、ここに作ることになった。とりあえず必要な資金が約110万円。これもすでに約60人から提供承諾があり、めどがついた。愛知、岐阜、三重を中心に北は北海道から南は沖縄までに学生から61歳の婦人まで。金額も5万円から最高50万円までと幅広い。その大半が、倉本個人のこれまでの人間的付き合い、そしてこれからの夢にかけたようだ。
 実際のところ、数年前まではシネアストは、倉本が一人で企画し一人で上映して活動してきたといってもいい。
 「大学2年の時に、映研の仲間とやりだしたのがきっかけです。見たいものをやってゆけばよいという気持ちで、年間100万の赤字を出したこともある。でも金がなくなればやめればよい、という気楽さもあった」という。そして「ただの映画好きなら、映画館で料金を払い、一人で見た方が数も多く見られるし苦労もない。映画との出合い、映画を通じての人との巡り合いにひかれるんです。やめられません」と。


夢はふくらむシネマテーク

 運営スタッフの幡野一人(31)=薬局経営=は、4年前の上映会に顔を出したのがきっかけで積極的にかかわるようになった。「こうなったら、とことことん付き合うつもり。シネマテークをどう発展させてゆくかだが、これまでにない新しい上映形態にしたい」と張り切る。
 南山大3年・平野勇治(20)、名大3年・奥田徹(21)、中京大1年・水谷伸ニ(18)の3人は、いずれも2年ほど前からスタッフになった。映画の好みも、スタッフを引き受けた動機もそれぞれに違う。だが、「映画は見終わってから始まるのです。一人では一人よがりの見方になるが、話ができる場があることにより、批評面で充実でき、人間的にも深めることができる。いい映画、見たい映画を見られる原動力になってゆけばいい」と口をそろえる。
倉本も「社会環境を含めてどう生きてゆくかを考え、検証する場でありたい。百本のうち1本かもしれないが、人生にインパクトを与えられるような作品があればいい。シネマテークでは、一般の劇場で見るよりは、その比率が高いはずだ」と自負している。


映画を媒介に総合的な活動
 
 シネマテークの広さは125平方b。うち82平方bを映写室、客室にあて、残りの43平方bに事務室、談話室、それに資料室を置く。同会には映画関係の雑誌1100冊、単行本600冊があり、これを公開するとともに将来はフィルムを集めたいという。 また秋には「愛のコリーダ」の原作シナリオの執筆問題で、もめた深尾道典のシナリオ「ある女の生涯」を出版する予定だ。中断している機関紙や季刊シネマテークの発行も行う。映画を媒介にした総合的な活動を考えているわけだ。
 もちろん中心になるのは上映活動。ラインアップも決まった。27日の開館はハンガリー・アニメーション特集で飾る。そして記念企画としてハンガリー映画祭、羽田澄子監督の記録映画「早池峰の賦」のロードショー、シュレンドルフ回顧展などが組まれている。どちらかといえば、既成の配給会社の欠落した部分の穴埋め作業もしてきた同会が、受け身から主体的に打って出る転機を迎えたわけだ。全員で、その力をどう持続させていくか、これからが正念場だ。
 同会の事務局は名古屋市千種区朝岡町3の7、マンション朝岡103号室。=敬称略=