「ことしは、“タクシードライバー”と“キングコング”を見ればOKだ」・・・。映画好きの高校生グループの言葉だった。「イエス」か「ノー」かはさておき、角川春樹角川書店社長の映画界へ殴り込み、早くも始まった「キングコング」と「カサンドラクロス」のPR合戦。年末にかけて話題ソーゼンといった映画界だが、華やかな舞台の裏に、地味だが、映画を愛するサークルがある。彼らは現在の映画界の状況に疑問と欲求不満を訴える。そこで、名古屋で静かに活動を続ける二つの趣味の会にスポットライトを当てると・・・。
 
 注:無声映画鑑賞会の紹介記事は省略しました。


 

中日スポーツ 76年11月4日

  「ナゴヤシネアスト」・・・。仏語で“映画人”という。「好きでなくちゃできませんよ。赤字続きなんです」。発足以来五年間、赤字の連続ながら「名古屋では見たくても見られない映画がかなりある。“見たい”というのは、ボクだけではないと思うので・・・・・・」。こう語るのは責任者の会社員・倉本徹さん(26)。昭和46年に産声。名大映研二年のとき。
 かっては名画専門の映画館がかなりあったが、いつの間にか自然消滅。大阪、東京では、名画を見よう式のサークルは増えたが、名古屋では名古屋名画鑑賞会(事務局は無声映画鑑賞会)と二つだけ。倉本さんは映画ファンとしての“意地”をかたくなに守っているとはいえまいか。
 洋画の正月は「キングコング」×「カサンドラクロス」。名古屋の洋画ロードショー劇場十館中、半分の五館がこの二本に占領される。「映画はこの二本だくじゃない」・・・というのが倉本さんの叫びであろう。

 すべてに孤軍奮闘

 「自分の好みのものをやっている。成瀬巳喜男、小津安二郎を本当はやりたいが、配給会社が貸してくれかくて・・・」。孤軍奮闘である。映画館、配給会社、会場探し・・・・・・。
 「経済学部卒ですが、どうも・・・・・・」と頭をかく赤字運営。そのつど、サラリーで埋め合わせがつくまで鑑賞会が開けない。が「いい作品を上映できた喜びでウサが吹き飛ぶ」という。同好者は少しずつだが増えている。今春、会員制をとったが、三百人が入会。社会人、学生が五分五分で主婦もいる。これらの会員に好評だったのはインド映画「大地のうた」「大河のうた」「大樹のうた」の三部作(サタジット・レイ監督)。このほか大島渚、チャップリン、仏のヌーベル・バーグ作品、1930年代のドイツ映画。ポーランド・リアリズムもの、名画あり、新作あり。これまで百本は超える。その大半が再映だが、中には名古屋初上映、ノーカット版が光る。

 人生観を忠実に描け

 「いい映画とは作家(監督)自身の生きざまと人生観が、忠実に表現されている作品と思う」。倉本さんの嗜好で言えば米映画はアイデア、映像感覚はいいが生きざまが出ていない、と手厳しい。
 自分の青春時代とオーバラップした映画が最も好ましく、優れた作品・・・と考えるのが一般的。だが倉本さんはこれにとらわれず、ただ“名画”を求めて羽ばたく。「来年は未公開ものをやりたい。そして、外国から好きなフィルムを輸入して上映することです」。次回の公開は20日−26日(幡屋シネマ)の“シネ・フェスティバル”。名古屋初公開の「ミリュエル」(アラン・レネ監督)が含まれる。
 問い合わせ、会員申込みはナゴヤシネアスト(A052-782-3731。土、日曜日だけ)へ。