副題



中日新聞76/07/03 掲載

 「埋もれた名画を一人でも多くの仲間に見てもらおう」━名作発掘の喜びにとりつかれ、売れない映画を赤字覚悟で5年間も上映している“興行マン”がいる。千種区朝岡町3の7マンション朝岡103号、倉本徹さん(31)と助手の名大工学部2年加納哲さん(20)。ことしも3日午前11時15分から4回、名古屋駅の県中小企業センターで上映が行われる。作品は1964年インド映画、サダジット・レイ監督の「チャルラータ」(ベルリン国際映画祭監督賞受賞)など。                                     
 「いいことしているなんて意識、まるでない。社会事業じゃないもの」とまじめに断って“事業”の動機に触れる倉本さん。さる46年名大在学中、映研の部活動として自主上映を始めた。
 「名古屋では興行性が低ければ、東京のように学生が多くないので劇場にかけられない。自分たちで上映するしかなかった」わけだ。普通なら卒業とともに終わったはずの自主上映。が、倉本さんの情熱は社会人になってからも消えるどころか、いよいよ強まった。47年暮れ“ナゴヤシネアスト”を設立、映研時代からだと5年間に延べ47回の興行を打った。
 「でも赤字がほとんど。サラリーやボーナスで赤字が埋まると次の興行を計画するという繰り返し。映画が見たければ東京へ行ってきたほうがよほど安くつく」と倉本さんは苦笑い。「仕事が面白くないうえ、月給も安い。」と先ごろ紡績会社をやめ、伊勢市の兄の仕事を手伝いながら、当分、好きな映画に没頭する構え。「加納君という、いい話相手もいる.今度の興行は退職金を注ぎ込んだ」とか。
 若い加納さんがちょっぴり悩みを打ち明けた。「たった一回きりの上映。だから雑務に追われて映画の最初と最後はいつも見られない。自分で見たくてやっているはずなのに」こんな“大矛盾”がひさびさに解消する。今度の興行は3日と7日の2日間にわたって試みる。もっとも逆に赤字が増える結果に終わる恐れも。
 倉本、加納コンビの表情はそれでも明るい。現在の二人の夢は、映画のことならなんでもわかるシネマライブラリー(映画図書館)を作りたい。東京、京都など他都市の自主興行グループと連係して、さらに内容を充実させたい━のだそうだ。