開設に当たっての呼び掛け文 82.3.19

この呼び掛け文については、今後検証を加えていきたいと考えています。
その後の状況の変化を織り交ぜながら、
どこまで出資・協力者を裏切ってきたのか、または裏切らなかったのかを検証したい。
この理由は、検証無くして次の展開がないからです。

倉本徹 2000年1月26日

(はじめに)

 映画に何故惹かれるのであろうか。
 映画が好きかと問われれば、嫌いだとは答え辛いが、決して映画無しでいられない程ではない。見るよりも酒を飲み、人との語らいの方が楽しい。このような状態で、よくも11年間、無駄とも思える時間を映画の為に費やしてきたものだ、と我ながら感心するが、時たま無駄にするだけの価値が、私にはあったのだと思うことがある。
 それは映画との出合いであり、映画(活動)を通じての人との巡り会いである。例えば、昨年8月「女と男のいる舗道」を見た時、初めてゴダールに泣き、彼のナイーブさを発見した。それは私の心情と同じものを作品の中に見たからに他ならない。「東京物語」もそうだ。その中に私の両親の影を見たのである。「三里塚・辺田部落」は、私に農耕の大切さと、人の結びつきの暖かさを教えてくれ、「戦争は終った」や「黒木太郎の愛と冒険」は、こだわりの持続の必要を教えてくれた。「まぼろしの市街戦」や「海の沈黙」は、私に戦争の空しさを語り、「水俣・不知火海」は、これのもつ怒りを通して、私の心底に巣くう瞋恚(しんい)を呼び起こさせてくれる。さらに「第一の敵」は中南米における先住民の苦悩の歴史と現状を知る手がかりを私に与え、「一万の太陽」は、ハンガリーへ私の関心を向けさせてくれた。
 このように、私に人生を教え、関心の切っ掛けを与えた様々な映画を、単に商業主義の名の下で死蔵し、廃れさせることは、私には許せない。私の出来る範囲で目一杯、その潮流を食い止めることが、私の仕事であると今では考えている。その為に幾多の人々の善意の協力を得て、細やかではあるが、最も適切なる専用スペースの設立を計画する。
 以下、映画の極地的現状と専用スペースの意義について論説する。

(新作について)

 6年前から始まったエキプ・ド・シネマに代表される特定多数を対象とした<地味な>映画が見直されるようになり、かつ西ドイツ映画やポーランド映画のような自主上映による紹介作業が実って、この分野にも大手配給会社による輸入・公開が積極的になされるようになった。しかし所詮、商業主義の論理のみで左右される世界には決して永遠なる展望はなく、より特定少数の欲する作品にまで配慮が行き届くわけはない。外貨準備の肥大化によって輸入業務が平易になり、映画を生業としない者、輸入を専業としない者でも容易に紹介作業が可能となり、又、大使館ルートによる文化紹介の活発化によって、世界各地の映画が日本にもたらされることが多くなった。これらは既存の興行形態を踏襲せず、契約条件もノン・シアトリカル(非興行・非劇場)である場合が多い為、映画館では上映できず、ホール上映が主体となり、東京での観客動員数が一作品1000人に満たないこともある。その為、地方では採算が期待できず、東京以外での完全上映の可能性は薄い。

(旧作について)

 昨年は、観客動員が史上最低を記録している。これは映画館数の減少を引き起こし、配給会社の方針とも絡んで、三番館・名画座・地方館において顕著に現れている。その為、旧作の鑑賞は年々困難になっている。旧作は回顧的に見られる以上に、映画研究、映画製作の基礎学習には欠かせず、かつ淘汰された結果とは言え、我々に感銘を与える作品が新作以上に多い。

(記録映画について)

 一方、記録映画は70年代の運動の停滞と共に製作本数は激減し、低迷している。その原因の一ツは、これを支える観客層が薄くなっている為であり、製作費の回収が全く見込めない為である。確かなる製作者の作品を恒常的に紹介し、客層を広めている作業は自主上映に携わる者にとって必要であり、それが映画から情況への一ツのアプローチの方法でもあろう。

(専用スペースの必要性について)

 このような状況にあって、これ等の作品の受け入れ体制、上映体勢の確立は地方において必要不可欠である。それが輸入行為者、製作者への熱いメッセージとなり、彼等を勇気づける。現在の移動上映では恒常的でかつ恒久的な活動としては限界がある。突然の割り込み企画には全く対応出来ず、通常の上映でも会場の確保が思うにまかせないこともある。その上、企画毎の経費が予想外に嵩み、いらぬ労力も裂かねばならない。その為、専用スペースの確保は不可欠であり、附随的に観客の定着が図れ、情宣の合理化も期待出来る。さらに輸入行為者等との緊密なる提携も可能となり、特殊形態による作品はかなりホロー出来るようになる。旧作上映も長期特集が組め、記録映画の定期上映も可能となる。当然、完全会員制による死蔵された作品の上映も不可能ではないだろう。

(資料室の併設と談話室の有意性について)

 専用スペースには資料室と談話室の併設を予定している。名古屋において映画関係を充実させた図書館はない。その為、映画を文献から調べようとしても出来ないのが現実である。しかし当会には雑誌1100冊、単行本600冊の所蔵がなされ、これを公開することにより、少なからずその穴埋めは可能となるであろう。さらに新たなる資料提供者の出現も予想され、一大資料センターになる可能性がある。当然、将来的にはフィルム所有も考えていくべきであろう。
 併設予定の談話室は、映画運動を進める上において必要条件である。従来の映画館やシネアスト上映等では為し得なかった見知らぬ暗闇での隣人との自由な談話や、夜を徹しての討論は、新たなる人間関係の樹立にはなくてはならないものである。そこで語られる言葉が発言者の全体重をかけた自身の生き方をも問うものであればある程、人はより理解し得るものであると確信している。そのような討論の渦中では、映画を自身のアイデンティティと対峙させる以外にはなく、その時、観客でしかすぎなかった私達が、主体的に作品に参加出来る時でもある。

(運営形態について)

 運営形態は社団法人化したい。資金面では設立委員会を組織し、企画や日常活動の面では運営委員会を作る。一ヶ月のうちの第二・三・四週の金・土・日・祭を定期上映日に当て、その他は休館、貸館及び割り込み企画用とする。さらに運動関係の集会・催事等には積極的に場所の提供を計っていきたい。

(専用スペース確保に向けて)

 以上の諸点を踏まえ、数年前より専用スペースの確保を80年代の最大目標としてきたのであるが、その資金的目途は年度毎の恒常的赤字によって永遠のかなたに押しやられてきた。しかし、最近、当会の条件に見合う範囲内で、その念願が適えられる可能性がでてきて、実現に向けての作業に入った。その為、これまで当・ナゴヤシネアストに好意を寄せてくれる人々、名古屋にこのような場所の必要性を痛感している人々、及び、少しでも状況を変えたいと思っている人々に、資金の提供を広く呼びかけるものである。
 賽は投げられた。新しき上映スペース確保に向けて、パルタモス(出発)!

 

<名古屋シネマテーク>運営案

1.組織
イ.設立委員会  設立資金提供者により組織。設立資金以外の負担なし。
            運営委員会への助言と勧告を与える権利を有する。
ロ.運営委員会  企画立案と日常的活動に従事。年度毎の赤字は融資により補填。
              設立委員会への報告の義務を有する。
ハ.全体会議    設立委員、運営委員、債権者により構成。
            基本方針の作成と変更等、重大事項の討議を行う。 

2.上映方針
 一ヶ月のうち、第二・三・四週の金・土・日・祭を定期上映日と定め、新作の紹介、記録映画の定期上映、旧作の長期特集を組む。又、英語字幕によるフランス映画、ドイツ映画、実験映画等の旧作を平日に恒常的に上映することも予定している。
(基本パターン) 第一週 休館、貸館等
            第二週 旧作上映
            第三週 記録映画(隔月)及び旧作・新作の拡大企画
            第四週 新作上映
            第五週 批評会、貸館、休館等

3.その他、基本事項(抜粋・要約)
イ.運営委員の資格は定期上映日のうち、月間3日以上の出館が可能な者に限る。小論文の呈示、使用期間有。担当日のみ食費と交通費の支給は考慮。現在、学生3名、社会人若干名募集中。
ロ.運営委員会において同意を得た企画については、定期上映日に行うが、同意を得られなかった場合は貸館形式により実行可能。
ハ.設立委員、運営委員、債権者への貸館は、一般貸出しより優先し、割引きをを行う。
ニ.運動関係の集会、催事等には積極的に利用の便を図り、会場費等は割引規定する。
ホ.談話室の外部貸し出しは上映日以外可能であるが、金銭負担を要請。
ヘ.収益を生じた場合、その2分の1を借入金返済にあて、残りは機材の充実、運転資金の積み立て等に回す。予想外の収益が生じた場合には、全体会議に於いて処理方法を討議。利息支払いも考慮。
ト.借入金の返済義務、突発的事故等の責任は、全て倉本徹個人にあるものとする。
チ.資料の閲覧は一般会員について無料、自由であるが、持ち出しは保証金を要請し、期日と冊数を限って無料。破損等は実費負担。資料提供者(50冊以上)はこの限りではない。

※名古屋シネマテークとナゴヤシネアストとの関係は、ナゴヤシネアスト(≒運営委員会)が名古屋シネマテーク(≒設立委員会)から館の管理・運営の委託を受けているという形を取るのが、社団法人化の為にも最も理想的と思われる。
※※名古屋シネマテークの場所及び工事費等について
(住所) 名古屋市千種区今池1−13 今池スタービル2F
       (今池より徒歩3分、千種より徒歩6分)
(規模) 38坪(内客席15坪/固定45席、立席15席予定)
(内装工事費・機材費用)   700万円〜800万円
(工事計画) 設計・見積    4月上旬
         工事着手予定   4月下旬
         工事完成予定   5月中旬
(オープニング) 1982年5月下旬予定

 

《名古屋シネマテーク》設立資金について

 <設立と発足について>及び<運営案>により、お判りいただけたと存じますが、設立の為の資金を広く募っております。資金の集まり具合により、内装等の限界があり、その為、早急に資金調達額の予想を立てたく、ここにご返答をお願いする次第です。
(提供資金)  一口10万円(一人1口〜5口) ※分割可能
(提供期限)  第一期 4月中旬(最低500万円必要)
          第二期 6月下旬迄 
(提供資金の形態)
1.設立資金  これをもって法人化の予定。返済期限なく、解散の時点で精算
2.貸付金   5年間で返却予定。名古屋シネマテークで返却できない場合、
         倉本個人の責任で返却
3.入場料前払金(一応2年間の入場料。内容等を検討中)
4.(2口以上の場合) 1〜3の方法で分割可能
(送金方法)●郵便振替口座
        ●東海銀行・本店
        ●持参