中日新聞 87年3月17日

自主上映続けて20年 倉本 徹さん
 

 名古屋・今池にある自主上映館「名古屋シネマテーク」は、全国的にも貴重な映画観だ。あまり日の目を見ない名画を上映してくれる。それも35_フィルムで。
 名古屋で採算がとれそうにない、いわゆる名画、クラシックを大手興行会社系列の映画観でも上映するようになったのも、シネマテークがきっかけになったといえる。支えているのは倉本徹(41)。学生時代、映画にとりつかれ、経済的な苦しさにもめげず重いフィルム缶をかついでの自主上映活動は20年を超える。その映画人生を・・・・・・。
                                   (文・田端成治 写真・竹岡幸彦)
 
・・・・・・これまで、シネマテークでは、何本、映画を上映しました。
 57年6月のオープンから数えて、850本は超えていると思います。

・・・・・・一番入ったのは。
 「アントニーガウディー」(59年11月)です。16日間のロングラン。愛知県中小企業センターでもやって、それを除いても四千四百人入りました。

・・・・・・そもそも、映画とのかかわりは?
 5浪したんです。実力も考えず東大めざして。うち、二年間、東京の予備校に通ったんです。その時
、映画にのめり込んで。年に二百本ぐらい見ました。結局、名古屋大学の経済学部に入って。すぐに映画研究会に加入して、46年1月から名古屋・中区役所ホールを借りて、自主上映会を始めました。最初が大島渚特集。途中から「映画の歴史を見る会」として、歴史的な映画だけれど、見る機会がなかった映画の上映会をやりました。「ナゴヤシネアスト」の名になったのは、48年9月からです。

・・・・・・経済的には。
 赤字続きで、苦しくて。だから、半年ぐらい休んで、チリ紙交換などで金をため、また再開するというふうでした。

・・・・・・常設館(シネマテーク)を作ろうと思ったのは。
 会場を借りての自主上映って、しんどいんです。前の晩に用意して、車に積み込んで。当日会場に運び込んで準備して。上映会が終わるとまた車に積んで、持って帰る。「常設館がほしい」って、大学の先輩がやっている居酒屋でしゃべったら「このビルに空いていることろがある」って、ここが見つかった。敷金も権利金もなしです。

・・・・・・どうやって資金を。
 出資を呼びかけたら、約100人が参加してくれて、1300万円集まりました。まあ、いってみれば、株主みたいなもの。ここは、もとは歯医者で、128平方b。いす席が40、補助席を入れると60人入れます。

・・・・・・自慢は。
 2台ある35_の映写機です。中古ですけど、自主上映館で35_があるのは、うちだけだと思います。

・・・・・・そこで、何を上映する。
 商業ベース、配給ルートに乗りにくい作品や、あまり上映の機会がない外国の映画なんかです。7人いるスタッフが、いろいろ企画を立てる。たとえば「岡本喜八特集」とか、が基本ですが、最近は東京の名画上映館からのルートで流れてくる作品が多くなりました。
 (シネマテークで上映中の映画は、フランス・ヌーベルバーグの巨匠エリック・ロメール監督の「満月の夜」。これからの予定としてはSF映画ともアクション映画、音楽映画ともいえるアメリカの奇妙な映画「レポマン」などが並んでいる)

・・・・・・経営状態はどうです。
 ようやく1昨年から単年度黒字になりました。もちろん累積赤字はありますが。私自身は、9年やった学習塾をやめ、一昨年夏から河合塾で小、中学生に算数、数学を教えてます。

・・・・・・昨年、結婚された。新婚生活は。
 やせましたよ、10`ぐらい。食事制限が厳しいんです。(笑い)。以前は肉中心だったのが野菜中心になった。それに夜10時過ぎると、ものを食べない。昔は12時過ぎでも、平気で肉食ってたんですが。

・・・・・・倉本さんの好きな映画は。
 小津安二郎の「東京物語」。自分の体験と重ね合わせてしまうんです。親不孝してきましたから。それから「大地のうた」(インド、サタジット・レイ監督)、「三里塚・辺田部落」(小川紳介監督)、「不知火海」(土本典昭監督)・・・・・・。

・・・・・・最近、映画を見ますか。
 1年に100本ぐらいになりました。最近・・・・、フェリーニ監督の「ジンジャーとフレッド」を見ました。いい映画とは思うけど、さみしい気がしました。フェリーニ老いたり、と。

・・・・・・これから、シネマテークは。
 自分たちで、フィルムを輸入したいですね。なるべく紹介されていない映画を。

・・・・・・まだ、シネマテークを知らない映画ファンに一言。
 普通の映画をやっているんです。ただ、大手の配給業者を通っていないので、宣伝もされず、紹介されていないだけ。けっして、ヘンな映画をやっているわけじゃない。まあ、中にはヘンなものもありますが(笑い)。
 

くらもととおるさん

 昭和20年6月25日、三重県伊勢市生まれ。4男4女の末っ子。県立宇治山田高校卒。44年、名古屋大学経済学部入学。大学時代に自主上映グループ「映画の歴史を見る会」を設立、48年「ナゴヤシネアスト」と改称。シネアストは「映画人」の意。
 49年名大卒。2年間、会社勤めをしたが、それ以後は塾教師をやりながら自主上映活動を。57年6月、自主上映館「名古屋シネマテーク」設立。
 昨年、教員で、シネマテークの観客だった美登里夫人(27)と結婚。
 シネマテークは名古屋市千種区今池1の6の13、今池スタービル2階。
                       電話052(733)3959、自宅も同ビルの5階。