副題


新名古屋新聞(ひと) 82年4月4日

 大学時代に「映研」仲間とフランスのヌーベルバーグ作品などを自主上映するグループ「ナゴヤシネアスト」を作ったこの人。普通の映画館では観られない(また、上映不可能な)マイナーな作品の自主上映に専念している。46年の「ナゴヤシネアスト」結成以来、上映してきた映画は600本。「ボリビア映画祭」「ポーランド映画祭」など多彩な海外映画の紹介にも全力を投球した。
 自主上映に走り出して11年目のいま、この人は、定期的に上映日を定め、新作の紹介や記録映画の上映、英語字幕によるフランス映画、ドイツ映画、実験映画などの旧作を上映する拠点「名古屋シネマテーク」の設立に意欲を燃やしている。
 「いままでは移動上映ばかりで、どこでどんな映画が上映されているのかわからない、というケースが多かった。『名古屋シネマテーク』ができると、上映場所が決まることになり、飛び込み企画にも耐えられることになる。これは、かねてからのボクの願いだったんです」
 「名古屋シネマテーク」の場所は千種区今池1−6−13の今池スタービル2階。客席は55席。「すでにビルの持ち主との契約を済ませ、4月下旬には着工し、5月中旬に完成させたい。オープニングには5月下旬を予定しているんですが、工事費は1000万円はかかるでしょうね」
 現在、この人の自主上映に賭ける熱意にうたれて設立資金を寄付する人が増えている。
 「一口10万円で、7、8口を寄付してくれた人もいます。きょうの時点(27日)で提供してくれた人は18人、団体は3団体。合計で約600万円になります。こうした好意を無にしないようガンバリたいですね」
 映画との出会いは、大学浪人時代に遡る。「年間200〜250本は観ましたねぇ。中でも『エデンの東』とか『ウェストサイドストーリー』なんかは思い出深い」
 しかし、こうした映画館上映という日本の上映体制に批判の目を向ける。
 「マイナーな作品が優秀であれ、そうでなくても一般の映画館で取り上げられることはあまりない。商業主義の名の下で死蔵し、廃されるような映画にボクは光をあてたい。現行の上映体制に挑戦するつもりで・・・・。だから『名古屋シネマテーク』は、運営が軌道に乗れば社団法人化したい。営利目的で設立するのではないのですし」
 『名古屋シネマテーク』の上映場所には談話室を設ける。「映画を観たあとのコミュニケーションを大切にしたいから」という。
 

プロフィール

  昭和20年、三重県伊勢市生まれ。名古屋大学経済学部卒。同大在学中は映画研究会(映研)に入り、2回生の時、映研有志と「ナゴヤシネアスト」を作る。現在、「ナゴヤシネアスト」代表。6月下旬には阿部定の半世紀を描いたシナリオ集(深尾道典監督作)『ある女の生涯』をウニタ書店との共同出版で出す予定。1週間のうち伊勢市の自宅で4日間、千種区朝岡町のマンションで3日間暮らす日々を送っている。53年、都市文化奨励賞受賞。
 「名古屋シネマテーク」の設立資金の送付方法は、郵便振替口座の場合、名古屋1-34867番、東海銀行(本店)普通150-514-758=口座名は「ナゴヤシネアスト」。