マイライフ



 見たいのを自分たちの手で・・・

中京スポーツ 81年8月31日

  私が映画にのめり込んだのは、ちょうど大学入試に失敗した浪人中のころ。東京に二年ほどいましたが、灰色の浪人生活の圧迫感から解放されたい願望が映画とドッキング。それは名画座を中心に見歩いたものです。
 それから、名古屋に戻り合計五年浪人の末、名大経済学部に入ったのですが、名古屋には見たい映画がなかなかない。それでは、自分たちで見たい映画、好きな映画を自主上映しようではないか・・・・と46年に発足したのが「ナゴヤシネアスト」なんです。

 昨年まで500本上映

 昨年までに約五百本の映画を、自分たちでセレクトし上映、会員も名古屋を中心に三百人足らずで運営しているんですが、儲けようとは思わないんです。営利主義に走ると、どうしても映画の選択が甘くなり、観客にコビを売るようになる。商売抜き、赤字ぎりぎりのところで、自己主張する緊張感・・・これが自主上映の原点です。だから、今の入場料(1000円前後)は、まだ高い。できれば400円から700円ぐらいで提供したいと思っているんですが。
 
 赤字がたたって結婚が破談

 ただ残念なのは、まだ「みせてやる、みせてもらう」の上映形態から完全脱皮できないこと。その反省から批評活動の活性化を図ろうと「シネアスト通信」を定期的に発行、私たちにとって映画とは何か、見たい映画は何かえお探りつつ、それをバネにして創作活動へ昇華させる・・・この展望から「夢あざけりし風のように」(78年)「沙羅」(80年)の二本を映像名古屋と共同製作したのですが、まだまだ不十分です。
 今までに感動した映画ですか? 小津安二郎の「東京物語」成瀬巳喜男「あにいもうと」「稲妻」木下恵介「笛吹川」。系列は違いますが小川紳介の「三里塚・辺田部落」森崎東「黒木太郎の愛と冒険」も印象深い。それに「水俣・不知火海」海外ではサタジット・レイの「大地のうた」アラン・レネ「戦争は終わった」など。共通しているのは“怒り”であり“こだわり”なんです。この“怒り”が私を共感させ魅了する。
 メジャー系の今の映画は、あまり見ていないので発言権はないかもしれませんが、なぜ作るのか、その姿勢に「?」がつきますね。観客にコビを売っているように思えて仕方がない。監督にも興行資本にも余裕がないんですね。失敗が許されない状況にある。何かがヒットすれば形をマネて中身が伴わない。
 私は伊勢で学習塾を経営、なんとか生活のメドはついているんですが、三、四月のシネアストの赤字がたたって? 結婚が破談になりましてね。さすがの私も落ち込んじゃいましたよ。今やっと立ち直ったところです。やっぱり「金食い無視」は女にモテないんですかね。理解のあるいい人を紹介してくださいよ。(笑い)
 
            記者の目
“資本の論理”を排除した自主上映会を始めて11年目。一つの節目を迎えて転換の苦悩がかい間見られた。映画青年も、36歳。これからが、自己貫徹の正念場だろう。