名タイ インタビュー
 


9年間ずーっと赤字続き。身を
固める年なんだけど、映画の魅
力にまさる女性が現れません。


名古屋タイムズ 80年9月26日

ペ ン 蛭川  清
カメラ 加藤静男

 映画の自主上映をするナゴヤシネアストをずーっとやってきまして、こんどのフランス映画「ボーヴォワール自身を語る」で、ちょうど百回目の上映会になります。第一回は溝口健二特集で、71年だったから、70年代のほとんどは、自主上映活動に打ち込んできたことになります。
 映画が好きでなけりゃ続けてこれなかったでしょうね。だけど映画との出合いは、高校を卒業してから。大学受験に失敗して、東京の予備校へ行ったんだけど、下宿生活でしょ。一人で楽しめるのは、パチンコか映画くらい。そらもう、やたら見ましたよ。低料金三本立てというやつね。一年に二百本はいったんじゃないかな。映画がボクの恋人だったわけ。
 映画ばかり見て暮らしてたから、受験勉強は二の次。当然、翌年の入試も落っこちた。で、また年間二百本ですわ。もう完全に映画に狂っちゃったんですよね。なんせ一週間も映画を見ないと、体に変調をきたすんじゃないかと思い込んでましたから。
 やっと名古屋の大学に入って、サークルはもちろん映画研究会。もっと映画を見るつもりだったけど、時あたかも70年で学園闘争の真っ盛り。たまに集会に顔を出し、機動隊のジュラルミンでこづかれたこともありました。たいていは映画を見るためにアルバイトに精を出してた。
 ところが、東京と違って名古屋では、見られない映画が割と多いんですね。特に商業ベースに乗りにくい作品は・・・・・・。名古屋で公開されないとなると、よけいに見たくなる。ボクと同じ気持ちの人もいるはずだから、いっそう自分の手で上映してみよう。そう思って、自主上映会をスタートさせたんです。
 百回目の上映会にこぎつけるまでには、いろんな苦労がありました。赤字覚悟の上映会が多いですからね。昨年は、これまでの最大規模でスケジュールを勤惰ので、一週間に2.2本も上映した計算になるんですが、赤字も130万円。ナゴヤシネアストの仕事を手伝ってくれるスタッフはいますが、赤字を負担するのはボク。これまでの9年間に一度も黒字になった年はありません。
 上映会での失敗も数知れず。映写機のレンズを間違えて、画面がスクリーンからはみ出しちゃったこともありました。本来ならお金を払い戻すべきでしょうが、台所が火の車だから、そのまま最後まで上映しました。もっとも、日を改めて、ちゃんと上映し直しましたけどね。
 週四日は伊勢の自宅近くで学習塾、あとの三日は名古屋へ出てきてシネアスト。そんな二重生活までして、一銭にもならないどころか、持ち出しばかり。そろそろ落ち着くべきトシなんだけど、好きな映画のことで自立した活動ができるから、結婚できなくても仕方ない。ま、映画より魅力的な女のコにめぐり会えない、ということでもあるのだけどね。