小川監督一周忌にあたって/全国の自主上映グループより


 
 
映画新聞 93年2月1日発行

 昨年2月は、私の半生にとって忘れえぬ月となった。それは、1日に実母を亡くし、かつ、その6日後、もっとも敬愛していた小川紳介氏を失ったからである。
 さて、「小川紳介追悼上映会」は全国的な展開の下、名古屋では昨年6月に一週間の規模で開催した。
 「小川プロ全作品集」は、過去において、78年(541名)、83年(188名)、88年(116名)の三回企画上映しているが、この「追悼上映会」への参加者数は、延べ379名を数えた。数はともかくとして、今回の上映会には、それまでとは異なって、若い観客が目立ち、彼らに感動を与えたように思う。特に、若いスタッフに与えた衝撃は強いものがあった。
 その感動を形に表わすべく、ひとつの行動を起こす。それは、88年の上映会において、“小川プロの映画術”と銘打ち、4夜にわたるワークショップが、小川紳介の手によって開催されたのだが、その記録を残す作業を行なおうということである。
 現在、採録作業を続けているが、テープから流れる彼の声はバイタリティーに溢れ、見聞きした些細な(?)事柄からひとつの映画を創り上げる彼の創造力の豊かさと、今の映画の状態を憂える彼の憤りが感じられる。それはまた、トコトン映画と付き合い、映画を真摯な態度で愛し続けたひとりの男がいたことを証明している。
 今年の夏までには、この本の編集作業に終始することになるが、最善の形で出版に漕ぎ着けたいと思う。