5月−夢の国−

映画新聞89年11月1日

山形国際ドキュメンタリー映画祭'89リポート

 当映画祭での最大の収穫は、サブ・イベント(アジアの映画の現在と可能性)への参加作品『5月−夢の国−』であった。この作品の完成度は、決して高いものとは言えないが、若者たちの夢と現実を描き、現代韓国の矛盾と問題点を浮き彫りにし、80年5月のいわゆる光州事件の本質と意義を表出しえていた。
 光州から逃亡してきた主人公が転がり込む先は、ソウルの歓楽街で生活の糧を得る若者達の安アパート。禁制品の売買で一旗揚げたい幼な友だち。アメリカ兵との結婚でここでの生活に終止符を打ちたいホステス。進駐軍のいた頃の日本もそのような状況か。しかし、アメリカの間接統治の下、民主化されぬ祖国においては、利用され、裏切られるだけで彼等の「夢」はしょせん夢でしかない。
 主人公の光州での行動と逃亡に対する自省の気持ちをフラッシュ・バックさせながら、80年5月の自由都市・光州の思想が、唯一韓国の理想郷「夢の国」であることを観るものに訴えかけていた。